第一章
  陳式太極拳の8つの特徴

  太極拳は我々の祖先が長い生活を送る過程で創作され、すこしずつ発展させてきた優秀な武術である。数百年にわたる実践の繰り返しと絶え間ない経験の総括を経て、人々はこの武術が内に持つ連携と運動の法則についての認識を次第に深めていった。

 先人達が残した太極拳の拳譜は、これらの実践の積み重ねがまとめられたものである。これは我々が太極拳を研究する上での重要な手がかりとなり、我々の太極拳学習の更なる助けとなるものである。しかし先人には時代的な制約があり、その理論の中には少なからぬ不要物もある。よって我々は実践を進めていく際には新たな認識を導入することによって理論の精査、無駄の省略等を行い、残ったエッセンスの吸収をするべきである。そして更に一歩進んで正確な理論を把握することによって、この拳を人々の健康に役立たせることができる。

 よって、太極拳を学ぶ際には、まず一番最初に、拳譜上の正確な理論をしっかりと把握しなければならない。あわせてそのポイントの所在を熟知・消化した後に、堅い基礎の構築と発展をさせ、次第に深いところへ入っていくのである。

 太極拳は全ての運動過程において、初めから終わりまで“陰陽”と“虚実”が貫かれている。これは動作の上で、全ての拳式にそなわる“開と合”、“円と方”、“巻き込みと開放”、“虚と実”、“軽と重”、“柔と剛”、“快と慢”として表現され、合わせて動作の中には左右、上下、内外、大小、進退等の対立的且つ統一した特有の形式を有している。これは太極拳の基本原則を構成している。

 太極拳は外見に特徴があるだけではなく、内功においても特別な要求が存在する。太極拳を練習するときには、まず最初に拙力(蛮力、単純で何の工夫も無い力)を使わずに意念を使う必要があり、内部では意と気、外側では神と気が打ち振える運動を行う。つまり、意の鍛錬と同時に気の鍛錬もしなければならないということである。この種の意と気の運動の特徴は太極拳のエッセンスの在り処であるのと同時に、太極拳におけるその他もろもろの特徴をも表している。

 この他、練習時には全身の放長(引き伸ばす)と順逆の纏絲を相互に変換させるという条件の下で、動作の上では柔も剛も表現しなければならず、更に弾性に富んでいなければならない。動く時には一動全動(一つが動けば全てが動く、ひとたび動き始めれば全てが同時に動く)、節々が連なり、全ての繋がりが断絶することなく、一気呵成であることが要求される。速度においては慢と快とが存在することが求められ、その二つが交互に行われる。力には柔と剛があり、その二つはお互いに助け合っている。姿勢と動作は中正且つ偏りがあってはならず、虚の中に実を、実の中に虚を有し、開の中に合を、合の中に開を含む。

 これらの条件が全て備わって初めて、太極拳はその特殊な作用を十分に発揮することができる。健康の上でも、運動器官や内臓を強くすることができるだけでなく、意識の統率能力、つまり“用意不要力”の能力を鍛錬・強化することが可能となり、スムーズに気を操り全身を活性化させることができるようになる。このように意を鍛錬することは気を鍛錬することでもあり、意と気が相互に増大・強化され、体が自然に強く逞しくなる。同様に技撃の上でも独自の作用を有し、軽を以って重を制す、慢を以って快を制す、自然の克服と掌握、動きはじめれば一動全動、“周生一家(おそらく一動全動と同種かそれを発展させた概念)”、知己知彼と知機知勢(己と相手を知り、最良のタイミングと空間を把握する)という懂勁(勁の仕組みを理解する)の境地を得ること等が可能となる。
 
 陳式太極拳の理論は、その他各派の太極拳と同じくするところもあるが、異なるところもある。ここにその特徴を一つ一つ述べていく。

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